6月30日
東京農工大学長寿・健康イノベーション研究会主催の特別講演会で「私のベンチャービジネス」と題して講演。遠藤のほかに、静岡県立静岡ガンセンターの山口 建総長が「がん医療の最前線」と題して講演。
http://www.tuat.ac.jp/social/moyoosi/20100518223208/20100621165327/index.html
6月19-24日
78th EAS Congress(弟78回ヨーロッパ動脈硬化学会大会(ハンブルグ、ドイツ)に出席
6月17日
一橋大学イノベーション研究センター長岡貞男教授主催の研究会でスタチン開発の歴史について講義。翌18日の長岡教授のコメント。「研究開発はなぜ一番でなければならないのか」を日本ビジネスプレス(JP Press)のWebsiteに発表。
http://jbpress.ismedia.jp/
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3735?page=3
長岡教授は2009.08.31(Mon)にも、同Website で「知識の果実を手に入れる難しさ.提携企業に先を越された日本の医薬品メーカー」 と題するスタチンの開発に関する論評を発表している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/1616
5月25日
32年前の1978年12月31日付きで、私は21年半務めた三共(現第一三共)を退職し、翌1979年1月1日付きで東京農工大学農学部の助教授になった。この2ヶ月前に、私は台北市(台湾)の林慶福から紅麹菌(Monascus属のカビ)10株を分与してもらった。同氏は日本の大学で学位を取った微生物学者で、台湾帰国後は台湾を含む東南アジア諸国の紅麹菌を用いた発酵食品から菌を分離し、紅麹色素(食品着色剤)の生産性と菌学的性質を調べ、論文を発表していた。私は紅麹色素と紅麹のわが国での普及を目的とする開発研究を農工大での研究テーマの一つに選び、それに用いる紅麹菌株を林慶福に依頼したところ同氏が快く送ってくれたものである。この研究を始めて間もない1979年1‐2月に、10株中の1株が意外にも大量のコンパクチン同族体(モナコリンKと命名、その後ロバスタチンとも呼ばれる)を生産することが分かった。意外というのは、発酵食品の製造に用いる微生物はコンパクチンのような抗生物質(生理活性物質)をつくらないと考えられていたからである。
本年4月に、私はモナコリンKの発見に至る経緯を「スタチンの発見―誰が、いつ、何処で?」と題する小文を「化学と生物」という雑誌で紹介した。この小文で林慶福が送ってくれた紅麹菌からモナコリンKが発見されたことを紹介した。5月25日、これを読んだ林慶福から「30年前のことで忘れていたが、(小文を読んで)光栄です」との嬉しいファックスをいただいた。
4月28日
一橋大学イノベーション研究センターのフォーラムで講演. 自然からの贈り物:スタチンの発明とイノベーション(III)
4月22日
東北都市教育長会議(由利本荘市)で講演.「新薬スタチンの発見と理科教育について」
4月21日
日本国際賞の授賞式と祝宴等に出席。本年の受賞者は「工業生産・生産技術」分野の岩崎俊一博士(東北工業大学理事長、東北大学名誉教授)と「生物生産・生命環境」分野のピーター・ヴィトーセク博士のお二人。日本から受賞者が出たのは、私の受賞(2006年)から4年ぶり。岩崎博士の授賞業績は「垂直磁気記録方式の開発による 高密度磁気記録技術への貢献」。ヴィトーセク博士の授賞業績は「窒素などの物質循環解析に基づく地球環境問題解決への貢献」。
http://www.japanprize.jp/prize_past_2010.html
4月10日
ドイツの新聞"Neues Deutschland" にスタチン発見の記事が載る。下図は記事の一部。本記事は2月13日に紹介したバイオテクノロジーの教科書"Biotechnology for Beginners"の著者。
http://www.neues-deutschland.de/artikel/168752.biolumne.html?action=print
記事の一部 |
この記事全文の邦語訳(馬場恒春訳)
遠藤章は、私自身(筆者のReinhard Renneberg)がスタチンの服用を始めて以来の私にとっての科学者のヒーローです。遠藤のスタチンの発見により何百万人という人が心筋梗塞から救われています。
スタチンはコレステロール値、正確には悪玉コステロールLDLを劇的に低下させます。1994年から2004年までに、米国における心血管系疾患による死亡率は少なくとも33%下がっています。専門家はこれをスタチンのお陰と考えています。
遠藤は寒い北日本で育ちました。 そこでお父さん(祖父が正しい)が森の中のキノコ類に興味を持たせてくれました。特に彼はハエは死んでしまうのに人間には害のないキノコ、ドイツのハエ取りキノコ(Fliegenpilz)の一種、に大変興味を持ちました。大学卒業の後に三共に勤めてからもキノコとカビ類(ドイツ語のPilzという言葉は両者を含みます)に対する興味は尽きませんでした。三共では最初に、果汁生産をより効率的にする酵素をキノコ・カビ(Piltz)の中から発見しました。この商品はヒットし、三共は遠藤をコレステロールの研究のため米国に送ります。1960年頃にはコレステロールが心臓疾患発症の中心的役割を果たしていることが明らかになっていました。
コレステロールは食事によって体内に取り込まれるか、または肝臓で合成されます。飽和脂肪酸の多い食事は心臓によくありません。その頃、コレステロール合成に関わる所謂HMG CoA還元酵素を阻害すると血中コレステロール値が下がるということが分かってきました。遠藤は日本に戻ってから有効な阻害物質の探索を行ないます。2年半の間に6392種ものカビ・キノコ類を調べました - 徒労でした(Sisphus-arbeitとはギリシャ神話に出てくるシュシュポスが大きな石を永久に転がし続けなければならなかったことより無駄な努力の意味に使われています)。
何故、再びカビ・キノコなのでしょうか? 遠藤はカビ・キノコは自然界の細菌を攻撃する際にコレステロールが豊富な細胞壁を標的にするに違いないと考えました。そして遂に1973年7月に遠藤は(前例となったアレキサンダー・フレミングのように) 青カビから大発見をします。Penicillium ctrinumはオレンジの表面に生えます。コンパクチンと名付けられた阻害物質は、しかし実験室では効果がみられませんでした。先生は同僚にニワトリでの実験を提案します。メンドリは卵を生むために大量のコレステロールをつくっているからです。そして実際その阻害物質はニワトリで効果を示しました。
しかし、会社(三共)は懐疑的なままで、遠藤の直属の上司だけが遠藤の発見を信じていました。その上司の支持があって、大阪大学病院で密かに重症患者の治療が始められました。今日であれば倫理委員会を通らなかったでしょう。遺伝子異常の結果著明な高コレステロール血症を来していた18の女性患者は最初のスタチンによる治療有効例(本文のドイツ語では治癒というニュアンスの言葉が使われています)と同時にスタチンの副作用である筋傷害を体験する最初の患者になりました。そして、投与量の減量により筋肉痛も消失しました。他の患者でも約27%のコレステロール低下が認められました。そしてやっと三共は納得したのでした。しかし、先生は(三共を)辞し、東京の農工大学の助教授になります。
当時、メルクもスタチンの開発を行っていました。2年後の1978年にメルクはロバスタチンをつくるカビを発見し、1987年に最初の商業化スタチン剤として、"Mevacor"の商品名で米国で発売します。1990年代半ばにはスタチンは莫大な売上を記録し、今日でも、例えばファイザーのスタチン(リピトール)は年間12ビリオン・ドルを売り上げる製品になっています。しかし、遠藤はスタチンの大発見で三共から1円(ドイツ文では1セントになっています)の報酬も貰っていません。
最後に、遠藤からの(筆者のReinhard Renneberg氏に宛てた)E-メールに以下のエピソードが記されています - 「2004年に私自身がLDL値155mg/dlと高いことを指摘されました。私がスタチンの発見者とは知らない医師は(添付の図のように)私にスタチンを薦めました。しかし、私は食事と運動療法だけで自分のLDLを130mg/dlまで下げました。日本の諺曰『、紺屋の白袴』(藍染人が白いズボンを履く)」。
4月6日
自治医科大学の高久史麿学長の委嘱を受け、同大学大学院医学研究科で「スタチンの発見―コレステロール低下治療への挑戦」と題して特別講義。
http://www.google.com/imgres?imgurl=http://lib-stream0.jichi.ac.jp/contents/all/201000000086.jpg&imgrefurl=http://lib-stream0.jichi.ac.jp/contents/all/201000000086.htm&usg=__-xbnIWBNFZen9hTnBKT5T0I4dQs=&h=240&w=324&sz=31&hl=ja&start=50&tbnid=R747AN-iZ3zFYM:&tbnh=87&tbnw=118&prev=/images%3Fq%3D%25E9%2581%252
3月26日
三菱ビル10階(千代田区丸の内)で開催された、一橋大学イノベーション研究センター、文部科学省科学技術政策研究所、米国ジョージア工科大学共同主催の日米ワークショップ「科学における協力と生産性」でスタチンの発見と開発について講演。
http://www.iir.hit-u.ac.jp/iir-w3/reserch/sgk_conf.html
3月9日
中学・高校生の理科離れが進んでいるのは日本だけでなく、アメリカでも問題になっていることはときどき耳にしていた(アメリカでは13‐18歳がハイスクール)。アメリカの大学教授、ライターなどが高校生たちの理科離れを防ぐ目的の本を企画。私は依頼を受けて, "What It Means to be a Scientist"とだいする序文(Introduction)を書き終え原稿を送る。本年中に出版される予定。
http://www.butrousfoundation.com/ysjournal/?q=node/343
2月24日
一橋大学イノベーション研究センターのフォーラムで講演.自然からの贈り物:スタチンの発明とイノベーション(II)
2月13日
バイオテクノロジーの教科書(英語とドイツ語版で出版)(下記)を改訂中の著者ラインハート・レンネバーグから、改定版にスタチンの発見と開発の歴史を載せたいので協力して欲しい、とのE-メールが届く。
書名:"Biotechnology for Beginners" (英文)
著者Reinhard Renneberg(香港科学技術大学教授)
出版社:Academic Press
http://www.amazon.com/Biotechnology-Beginners-Reinhard-Renneberg/dp/0123735815/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1279257953&sr=1-1
この教科書はノーベル賞を2度受賞した生化学者フレッド・サンガーが書評で「もう一度学生にもどりたい」(下記の書評2例の一つ)と絶賛するほどの名著。
"This book lets me wish to be a student again..."
- Fred Sanger, Double-Nobel Prize winner
"This great book is highly contagious, if you open it, you want to read more and more..."
Jim Larrick, US-Biotech entrepreneur and founder of Absalus